今年度は,強磁性絶縁体CoFe2O4薄膜を用いた垂直磁化のトンネル型スピンフィルター効果の評価を行うために,L10型FePd/MgO/CoFe2O4を基本構造とする磁気トンネル接合(MTJ)素子を作製し,その磁気抵抗の評価を行った.CoFe2O4薄膜はMgO上では作製条件により垂直磁気異方性を示すので,レーザーアブレーション法によるMgO(001)基板上でのCoFe2O4薄膜作製条件を調べた.作製したCoFe2O4薄膜の結晶状態,磁気特性及び平坦性を調べたところ,表面平坦性が若干悪く,トンネル型スピンフィルター効果を生成するためのトンネル障壁層として用いた場合には,リーク電流が多くなることがわかった.その改善のためにターゲット材料とMgO基板の間に特殊な形状をした立体型の遮蔽板を配置し,大きな粒径のCoFe2O4が基板に付着しない成膜法を試みた.この手法により,平均表面粗さが0.1 nm程度と極めて良好な結果が得られた.また,単純な平面遮蔽板を使用した際に生じる膜厚のむらがほとんど生じないことがわかった. MgO(001)基板上にCr/FePd/MgO/CoFe2O4多層膜を成膜し,フォトリソグラフィーやアルゴンイオンミリング装置等を用いてMTJ素子を作製した.低温から室温での伝導特性評価装置等を用いてトンネル磁気抵抗(TMR)効果を評価したところ,5Kで16.4%のTMR比が得られ,300Kにおいても0.71%のTMR比が得られた.また,CoFe2O4薄膜のバリア特性も良好であることがわかった.以上のように,本研究では垂直磁気異方性を持つ材料でのトンネル型スピンフィルター効果を示唆する結果が得られた.
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