研究概要 |
本研究課題の目的は,クラスレート化合物におけるガラス的な物性の発現機構の解明とその物性の理解を目指すものである.本年度は,内包化合物クラスレートにおけるゲストイオンのラットリング振動状態を解明するため,特に,THz領域でのダイナミクスに関する理論を構築した.これによって,オフセンター系に対して初めてフォノンの分散関係を求め,オンセンター系との違いを定性的及び定量的に示した.オフセンター系のモデルに対して得られたフォノンのエネルギー分散では,音響フォノンの横モードのブランチが波数に依存しないような,平坦な分散が現れる波数領域が低エネルギーに存在する.これは低エネルギーに横たわる,ゲストイオンのライブレーションモードとの結合によるもので,これこそがオンセンター系とオフセンター系の物性の違いの本質であると結論付けた.また,充填スクッテルダイト系やパイロクロア酸化物系で見られるようなラットリングフォノンと多軌道電子系との相互作用を議論するためには,多軌道電子系の物性を理解することが必要であると考え,多軌道の効果が重要な物質系である鉄砒素超伝導体の物性を調べた.平均場近似および乱雑位相近似を用いてスピン励起を計算した結果,実験で観測されているスピン波励起の特徴を再現し,これらの励起の特徴と磁気秩序の強さとの関係性を示した.また,反強磁性金属相におけるディラックフェルミオンが物性にどのように寄与しているかを調べて,ホール係数やゼーベック係数などの伝導係数における特異な振る舞いをディラックフェルミオンの観点から統一的に説明した.
|