研究概要 |
πdハイブリッド伝導体(DIETSe)_2Xは、擬一次元π電子系のスピン密度波(SDW)と局在d電子スピンの反強磁性(AF)という2つの秩序変数が共存・競合する興味深い物質である。その特異な磁気輸送特性の解明、および、スピンと電荷の自由度の制御による新たな電子機能性の探索を行った。 今年度、米国の国立強磁場研究所に数ヶ月滞在し、実験をする機会が得られたため、超強磁場下での物性測定を中心に研究を行った。πdハイブリッド伝導体(DIETSe)_2Xの低温・圧力・強磁場下での新規な電子相を探索する目的から、35Tまでの強磁場下での磁気抵抗測定を行った。その結果、FeCl_4塩において圧力下で磁場誘起スピン密度波(FISDW)の遂次相転移の観測に成功した。これは我々の知る限り、SDWとAFが共存する系においてFISDWを観測した最初の例である。 また、FeBr_4塩は、常圧下約7Kにおいて金属-絶縁体転移とd電子のAF転移が同時に起きる物質である。この物質についても35Tまでの強磁場下磁気抵抗測定を行ったところ、約24T以下でヒステリシスを伴う非常に大きな磁気抵抗の異常を観測した。この異常はd電子スピンのAF秩序相の相境界で発現することが、磁気トルクの測定によって明らかになった。 また、化学的な物質制御の方法として、混晶(DIETSe)_2(FeCl_4)_<1-y>(FeBr_4)_yを作成することにより、両塩の中間状態にある物質の構造・物性を系統的に調べた。主にy=0.15,0.5,0.75の単結晶試料の合成、構造解析、SEM・EDXによる成分分析、磁性や伝導性などの物性評価を行った。FeCl_4塩にFeBr_4-イオンをドープしていくと、SDW転移温度は徐々に抑制され、y=0.75では消失した。一方、d電子スピンのAF転移温度はドープに伴い徐々に上昇することが分かった。また、磁気トルク測定と磁気抵抗測定も行い、スピンフロップに伴う磁気抵抗の大きな変化を観測することに成功した。 本物質群は、擬一次元π電子系のSDW不安定性と局在d電子スピンのAF秩序が強く相関し、協奏・競合することによって、従来にない特異な物性が現れることが明らかとなった。
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