LaCu_3Fe_4O_<12>は温度誘起電荷移動現象を示す極めて珍しい例である。この現象にはCu^<3+>/Fe^<3.75+>といった異常高原子価イオンが係わっており、大きな負性熱膨張や金属-絶縁体転移を伴う。本課題の平成22年度の成果は以下の通りである。 (1)LaCu_3Fe_4O_<12>の圧力下におけるメスバウアー測定、X線吸収測定、X線結晶構造解析などを行い、その電子状態の温度-圧力相図を作製した。約3GPaという比較的低い圧力において電荷移動転移が誘起されることを見出した他、さらに高圧においてFeの電荷不均化現象の存在が示唆された。これらの事から、この物質の電子状態が[Cu^<3+>/Fe^<3+>]状態と[Cu^<2+>/Fe^<3.75+>]状態の間の微妙なバランスの上に成り立っており、さらに異常高原子価イオンは非常に多彩な電子状態を発現しうることが示された。 (2)La^<3+>サイトを一部Ca^<2+>で置換した(LaCa)Cu_3Fe_4O_<12>固溶体の合成に成功した.放射光を用いた粉末結晶構造解析を行い、その価数状態の温度-組成相図を作製した。その結果、Ca置換に伴ってCuサイトにおいて+2価状態が徐々に安定化することや、50%程度Ca置換することで基底状態がFeの電荷不均化状態[Fe^<(4+δ)+>/Fe^<(4-δ+>]へと変化することを見出した。 これらの成果は、これまであまり知られていなかった異常高原子価イオンが起こす電荷移動や電荷不均化現象に関する理解を大きく広げた。このことは物性物理学的な意義を持つ上に、異常高原子価イオンを活用した新規機能性材料の創出にも大きく貢献できる。
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