研究概要 |
CeCoIn5は電子比熱係数が1J/K2・molにも達する重い電子系物質であり,超伝導転移温度Tc=2.3K以下で異方的超伝導を示す.重い電子系としてはかなり高い転移温度を示すことなどからいくつかのグループでエピタキシャル薄膜の作製が試みられてきたが,どのグループでも未だ成功していない.申請者らは世界に先駆けてCeCoIn5のエピタキシャル薄膜を作製することに成功した.作製した膜の電気抵抗率はバルクの振る舞いを良く再現し,約1.9Kでゼロ抵抗を示した.これらの結果は作製したエピタキシャル膜が純良であることを示している.申請者らは更に磁性を持たない通常金属であるYbCoIn5とCeCoIn5が交互に積相した人工超格子を作製した.YbCoIn5層を4nm程度の厚みにすることでCeCoIn5層間の相互作用を抑制し,それぞれ孤立しているとみなせる.このような膜でCeCoIn5層の厚みを厚い極限から系統的に薄くしていくことにより,異方的超伝導に及ぼす次元性制御の影響を調べた.CeCoIn5が1層の厚みしか持たない膜でも超伝導が現れること,上部臨界磁場が薄膜と平行な方向で鋭いカスプを示す事から重い電子による異方的超伝導を2次元に閉じ込める事に世界で初めて成功したと結論される.TcはCeCoIn5層の厚みを薄くしていくにしたがって急激に低下していく.これに対して上部臨界磁場Hc2はゆっくりとした減少しか示していない.そのためHc2/Tcは2次元化に伴い急激に増大する.これは2次元閉じ込めにより(1)強結合超伝導が実現,(2)超格子における局所的な反転対称性の破れによるHc2の上昇,(3)空間的に変調した超伝導状態が実現しており,それにともなうHc2の上昇,のいずれかが起こっていると考えられる.また,CeCoIn5の関連物質であるCeIr2In7のIn自己フラックス法による単結晶育成にも成功した.
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