研究概要 |
銅酸化物高温超伝導体をはじめとする電子相関が強い系の磁気量子臨界点近傍では、従来のフェルミ液体論では説明できない物理量の温度依存性が観測されている。注目すべきことは、この量子臨界点近傍で電子格子相互作用を媒介とするBCS理論では説明できない非従来型の異方的超伝導が発現することである。本研究では、磁性と関連の深い、電子相関を舞台とした非従来型超伝導発現機構を、世界的にも例の少ない低温高圧下(P<5万気圧、T<300mK)における核磁気共鳴(NMR)/核四重極共鳴(NQR)法及び、世界最強磁場(45T,米国立強磁場研究所)下NMR法による、高温超伝導体の基底状態の研究により明らかにすることを目的とした。 平成24年度は本研究期間最終年度に当たり、銅酸化物高温超伝導発現機構解明に繋がる、「基本電子相図解明」に取り組んだ。 本研究期間中に、米国立強磁場研究所において超強磁場下(45T) NMR実験を行い、磁場によって超伝導を破壊することに成功し、絶対零度における高温超伝導の背景電子状態「擬ギャップ基底状態」を初めて同定した。これを踏まえ、平成24年度は、その実験事実から高温超伝導体の基本電子状態に関する理論的考察を行った。 具体的には、マサチューセッツ工科大学X.G.Wen教授グループとの共同研究で、理論的観点から、本研究の強磁場NMR実験で得られた擬ギャップ基底状態が、今までにない量子スピン液体状態であることを提唱した。これらの成果は、銅酸化物高温超伝導発現機構の理解を進める上で基本情報として重要であり、岡山大学で開催された超伝導に関する国際シンポジウムの依頼講演に選ばれた。
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