研究課題/領域番号 |
22740233
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岩澤 英明 広島大学, 放射光科学研究センター, 特任助教 (90514068)
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キーワード | 強相関電子系 / 超伝導 / 角度分解光電子分光 / ルテニウム酸化物 / 多体相互作用 |
研究概要 |
本研究は、放射光の「偏光特性」・「励起光の可変性」を利用した角度分解光電子分光(ARPES)により、これまでの研究では困難であったマルチバンド系強相関層状遷移金属酸化物における微細電子構造の解明を目的としている。前年度の研究から、上記の放射光の特徴を上手く活用することで、複数の電子バンドを分離し、選択的に観測できること、さらには、フェルミ準位近傍の電子バンドに働く電子・格子相互作用を評価することが可能であることが分かった。一方で、電子・格子相互作用を「定量的」に評価するためには、電子バンド幅(数eV)程度のエネルギースケールを持つ電子・電子相互作用も詳細に調べる必要があることが、これまでの研究から明らかとなっていた。 そこで本年度は、Sr_2RuO_4の電子バンドに働く多体相互作用の定量評価に向けて、伝導層を担う三つの電子バンド(Ru4d_<xy,yz,zx>)の内、バンド幅(W)の広い二次元的なd_<xy>バンドと一次元的なd_<yz,zx>バンドに対して、より広域的かつ高分解能の偏光依存ARPES測定を行った。その結果、銅酸化物高温超伝導体で広く観測されていた高結合エネルギー側のバンド分散における異常(HEA : High Energy Anomaly)が、Sr_2RuO_4のd_<xy>バンドに存在することが明らかとなった。詳細な自己エネルギー解析から、実験的に自己エネルギーの実部、虚部を導出し、さらにフェルミ液体論に基づく簡単なモデルを用いることで、自己エネルギーの振る舞いやスペクトル関数が再現できることが分かった。また、HEAのエネルギースケール(ω_c)が自己エネルギーの実部がゼロ点を横切るエネルギーで与えられることを示した。さらに、ω_cとWの関係により、W>ω_c(d_<xy>バンド)の場合にHEAが存在し、W<ω_c(d_<zy>バンド)の場合、HEAが現れないことが明らかとなった。これらの結果により、電子・電子相互作用と電子・格子相互作用をそれぞれ定量的に評価することが可能となった。 また、銅酸化物高温超伝導体(YBa_2Cu_3O_7)や典型的な二次元フェルミ液体であるCu,Agなどの表面準位においても、多体相互作用の定量解析も並行して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は「マルチバンド系強相関層状遷移金属酸化物において、多体相互作用の定量評価」を主な目的としている。これまでの研究から、マルチバンド系強相関物質Sr_2RuO_4において、放射光の「偏光特性」・「励起光の可変性」を利用することで、自己エネルギー解析から多体相互作用の情報を抽出できることを示している。さらに、昨年度の研究から、Sr_2RuO_4の電子・電子相互作用や電子・格子相互作用といったエネルギースケールの異なる多体相互作用の振る舞いが明らかとなり、これらの多体相互作用を定量評価する実験・解析方法を確立することに成功している。また、マルチバンド系のみならず、銅酸化物高温超伝導体(YBa_2Cu_3O_7)や典型的な二次元フェルミ液体であるCu,Agなどの表面準位においても、同様の測定・解析を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を踏まえて、今後はマルチバンド系強相関物質であるSr_2RuO_4の電子・電子相互作用と電子・格子相互作用の定量評価をはじめに行う。また、これまでは特定の励起光エネルギー・特定の波数での評価であったため、励起光エネルギーや波数を変化させた測定を行い、多体相互作用の結合の強さ(結合定数)の面内・面外の波数依存性を評価し、電子に関わる相互作用がどのような面内・面外波数依存性を持つかを検証する。その他の強相関電子系(銅酸化物高温超伝導体(YBa_2Cu_3O_7))や弱相関電子系(Cu,Agなどの表面準位)においても、同様の測定・解析を行うことで、電子・電子相互作用や電子・格子相互作用といった代表的な多体相互作用に関して、フェルミ液体論の範疇でどこまで強相関電子系の電子構造が理解できるかを把握したい。
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