量子スピン系では、ラッティンジャー流体、ボーズ凝縮等、量子力学の重要な現象の観測が可能である。近年では、フラストレーションによるスピン液体、ネマティック相やランダムネスによるボーズ・グラスも注目されている。これらの相、準粒子励起の観測には、スピン相関関数を直接にプローブし、スピン・ダイナミクスを幅広い波数空間で観測する中性子散乱が強力である。本研究課題では、スピン系の中性子実験を強力に推進することにより、新しい量子現象を観測することを目的としている。本年度は、強磁性反強磁性一次元フラストレート鎖LiCuVO_4の強磁場極低温下での中性子回折を行った。7T以下の低磁場では、過去に報告されている最近接および次近接相互作用の競合による古典的らせん秩序が観測されたが、7T以上の高磁場ではらせん秩序が消失し、新しい不整合秩序相が出現する様子が観測された。この不整合ベクトルは磁化に比例してq=□/2からシフトしており、1次元フラストレート鎖で予想されているボンドネマティック/SDW状態のスピン相関の不整合性と一致していた。一方、ボンドネマティック/SDW状態では、不整合スピン相関がべき減衰するのに対し、LiCuVO_4での相関は長距離であった。したがってこの物質では、弱い鎖間相互作用のために、ネマティック状態を色濃く残したままスピンが長距離秩序化した新しい状態が実現していることが明らかとなった。昨年度は弾性散乱実験による静的な状態の研究を行ったが、今年度は引き続き非弾性散乱実験により、新規相のダイナミクスの研究を行う。
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