近年有機半導体において巨大磁気抵抗効果が発見され、非常に注目を集めている。本申請の目的は、申請者が発展させた、半導体デバイス動作と分光技術の融合分光法に、磁気共鳴技術を新たに融合させることで、磁気抵抗効果を含めた有機半導体デバイスのスピン物性の発現機構を明らかし、さらに、その機能発現に内在する新規物理現象を探ることである。初年度は、ポリマー半導体におけるEL素子動作と分光実験の融合であるデバイス変調分光法の、ESR応答を観測するシステムの開発に重点を置いた。まずは、ESR装置内にて分光信号を取り込むシステムを構築することに成功した。そのESR応答の有無を確認するために、レーザー励起の光励起状態の分光信号におけるESR応答を確認した。その材料として、ポリマーLED材料として最も知られているMEH-PPVを用いた。結果として、実際に、光励起の分光信号がESRによって変化することを確認し、そのESRスペクトルの計測を実現させた。この手法は、過去に報告されたものであるが低温領域において観測例があるのみである。しかしながら今回、室温にて信号計測を実現させ、高感度検出システムの構築が行えた。さらに23年度においては、デバイス変調信号のESR応答を確認するために、さまざまな工夫を凝らした。特に信号の検出系をアンプなどを含め最適化した。その効果は、レーザー励起の光励起状態の分光信号におけるESR応答から確認した限りでは数倍の感度向上として確認できた。しかしながら、デバイス変調信号の信号確認には残念ながら至らなかった。原因としては、感度自体は十分であったが、思った以上に、信号を与えるキャリア自体の量が少ないことであると結論付けた。
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