モット絶縁体のkappa-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clの誘電率測定によって、金属相に近い電荷秩序系のtheta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4に比べると小さいものの、低温極限で面内と面間で10程度の誘電率の異方性があることを見出した。kappa-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clの非線形伝導と誘電特性も、theta型塩と同様に、熱励起されたダブロン・ホロン(電子・ホール)対の電場による解離および分極として統一的に理解できることがわかった。ただし磁気抵抗はtheta型塩と比べると小さく、電荷秩序系の電子・ホール励起がスピンを持つのに対し、モット絶縁体のダブロン・ホロン励起がスピンを持たないという違いを反映しているのではないかと考えている。これらの結果を論文にまとめPhysical Review B誌に投稿した。強電場効果やスピン依存伝導現象をさらに調べるため、分子性結晶上へのサブミクロンスケールの微小電極形成を行った。通常の電子線リソグラフィーの方法は分子性結晶に適用するのは難しいため、集束イオンビーム加工によって作製したメタルマスクを使って、微小電極形成を行った。電極間隔の異なる複数のtheta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4の測定を行い、非線形伝導の生じる電圧が系統的に変化するのを観測した。これは微小電極によって接触抵抗ではなく試料の特性を測定できていることを意味する。(BEDT-TTF)3Br(pBIB)などの金属の分子性結晶への微小電極形成も試みた。この場合は、余分な電流パスを防ぐためGEワニスを薄く塗布して絶縁膜として用いた。また、窒素冷却した状態での蒸着を行うなど接触抵抗の低減を目指した。
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