研究課題/領域番号 |
22740238
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山瀬 博之 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 主任研究員 (10342867)
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キーワード | 物性理論 / 金属物性 / 強相関電子系 / 光物性 / フェルミ面 / 自発的対称性の破れ / 強磁性 / 繰り込み群 |
研究概要 |
1、フェルミ面の対称性の破れに伴う電子の自己エネルギーの非摂動計算:イットリウム系銅酸化物高温超伝導体において、磁気励起スペクトラムや輸送係数に顕著なxy異方性が観測されている。観測される異方性は低ドープ側でより大きくなる。この背後にフェルミ面の対称性の破れの集団励起モードが存在する可能性が理論的に既に示されている。一方、低ドープ側では大きな擬ギャップが存在し、その起源の解明が大きな研究テーマになっている。そこで、フェルミ面の対称性の破れの揺らぎによる電子の自己エネルギーを調べた。摂動論的取り扱いが破綻することが判明したために、この理論的困難を如何に乗り越えるかが大きな挑戦であった。この難題を、ワード恒等式に基づいた非摂動論的解析を実行することで解決した。特にガウシアン揺らぎの領域では厳密解析である。2次元電子系での揺らぎの解析において、このような非摂動計算が実行できたこと、それ自体で既に理論的価値が大きいと思われる。フェルミ面の対称性の破れの揺らぎは、角度分解光電子分光で観測されている、いわゆるフェルミアークは再現出来るが、残念ながら一粒子スペクトラムの擬ギャップは再現出来ないことが分かった。2、銅酸化物超伝導体での電荷不安定性の系統的研究:1の研究結果を受け、なぜ角度分解光電子分光をフェルミ面の対称性の破れという観点から統一的に理解出来ないのか、その理由を探った。銅酸化物高温超伝導体の有効模型は2次元t-J模型であることに注目し、t-J模型に含まれているすべての電荷不安定性を、経路積分で定式化した1/N展開の理論を用いて系統的に調べた。その結果、フェルミ面の対称性の破れの不安定性が有限の波数を持ち得ることが判明した。1の研究では波数ゼロ周りの揺らぎだけを考察したので、有限の波数周りの揺らぎを考慮した上で実験データを論じる必要性が浮上した。さらに、フェルミ面の対称性の破れ以外に、電荷フラックスオーダーもほぼ同時に発達することも判明し、この効果も考えた上で実験データを論じていく必要性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験家との緊密な議論を保ちつつ、理論研究をおのおののテーマのエキスパートと共に着実に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
非弾性X散乱実験の分解能の向上がまだ十分でない実験的状況を踏まえ、光物性に関する研究テーマをラマン散乱にシフトさせ、理論と実験との結びつける基盤形成を確実に行うようにする。
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