1、フェルミ面の対称性の破れと強磁性の競合物性。どちらの秩序変数も波数ゼロで特徴づけられることに着目して、両者の競合物性の特徴を捉える前方散乱模型を提案し、その包括的解析を行った。両者は一般に競合関係にあるが、共存相も存在することが分かった。磁場中では、フェルミ面の対称性の破れとメタ磁性転移の競合が生じる。強磁性相互作用を強くすると、ある値を境にして前者から後者への転移に移り変わり、常に両者は背反的であることが分かった。更に、強磁性相互作用によって、フェルミ面の対称性の破れが生じる磁場領域とその磁場スケールが著しく減少すること、しかし相転移温度の最大値は普遍であること、フェルミ面の対称性の破れに伴う一次相転移の温度領域が増大すること、を見いだした。これらの結果は、二層系ルテニウム酸化物において磁場中で観測されている、電子ネマチック相図を特徴づける諸々のエネルギー量をほぼ定量的に再現する。 2、軌道ネマチック物性への拡張。軌道ネマチックはフェルミ面の対称性の破れの概念を多バンドに拡張したものである。その存在が鉄系超伝導体において示唆され注目を浴びている現状を踏まえ、現実的な2バンド模型を用いて以下の2つの理論を構築した。 (1)軌道ネマチック揺らぎによる超伝導理論。低エネルギー、長波長の揺らぎによって、臨界温度50K程度の強結合超伝導が生じること、クーロン斥力効果による臨界温度の抑制は弱いこと、軌道ネマック秩序と超伝導との共存が可能であること、を示した。 (2)軌道ネマチック揺らぎによるラマン散乱理論。ラマン散乱強度にセントラルモードが、B1g対称の偏光配置ではネマチック相転移温度の前後に、A1g対称では相転移温度直下のみに生じることが分かった。B2g対称ではセントラルモードは生じないが、ネマチック秩序変数の増大に伴うリフシッツ相転移の効果が高エネルギー領域に現れることが分かった。
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