超巨大磁気抵抗やマルチフェロイックスで知られるペロブスカイト型Mn酸化物は、Mnイオンの形式価数が3価近傍の(正孔ドープ型)物質が従来の研究対象であった。一方、本研究では高圧合成を利用した新規合成法により、Mn^<4+>近傍の電子ドープ型Mn酸化物単結晶の作製、その新規物性の開拓を目指してきた。前年度は母物質SrMnO_3を中心に、Mnサイトへの電子ドープ効果を精密に調べた。これに対し今年度はSr^<2+>をBa^<2+>で部分置換し、キャリアをドープせずに格子定数を変化させた物質を系統的に作製した。特に最新の第一原理計算では、SrMnO_3の格子定数を増大させると磁性イオンの変位に起因する新しい強誘電状態が実現すると予測されていたため、これを実験的に検証することを本年度の目的とした。 上記の合成法を利用し、世界で初めてSr_<1-x>Ba_xMnO_3(0≦x≦0.5)の単結晶の合成に成功した。xの増加に伴い格子定数は単調増加し、x=0.45近傍での立方晶-正方晶転移に伴い強誘電体状態となることを見出した。強誘電転移温度T_cは室温を超え、分極の大きさはマルチフェロイック物質で最大の4.5μC/cm^2(双晶状態)であり、応用上重視されているチタン酸バリウムに匹敵する。特に強誘電性格子歪が、スピン秩序により約70%も減少することが明らかとなった。これは、強誘電分極が10μC/cm^2以上変化していると見積もられ、磁場によりμC/cm^2サイズの分極を制御できることが示された。さらに遠赤外・非弾性X線散乱測定により、常誘電相においてソフトフォノンを観測することに成功した。このソフトモードがスピン秩序により50%以上もハード化することも明らかとなり、常誘電相での巨大なスピン-フォノン結合が示唆された。以上、本年度は従来不可能であった磁性イオン変位型の強誘電性を実現し、その巨大電気磁気効果を実証する結果となった。
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