大腸菌の遺伝子レベルのミクロな現象から、細胞個々の動きと細胞間の相互作用、そして集合した時のマクロな振舞など、各階層で観測される秩序形成は良く研究されている。また大腸菌のマクロな秩序形成は非平衡系におけるパターン形成の一例として知られている。大腸菌の振舞いにおいてミクロからマクロを繋ぐ階層的秩序構造を明らかとし、その秩序構造とエントロピー生成の関係を明らかとすることを目指した。平成22年度の結果を踏まえ、大きく分けて下記の2つの研究を行った。 (1)個々の大腸菌の動きの観測(大腸菌の位置情報と速度情報)とその統計量から大腸菌のマクロなパターン形成の理解を行った。具体的には、初期栄養濃度や寒天の硬さをパラメータとしたときの大腸菌の平均移動距離を測定し、マクロな物理量である拡散係数や移流係数との関係を議論した。初期濃度により大腸菌の有効拡散係数が変化する可能性がある結果が得られたものの、その結果と大腸菌のパターン形成に関して定量的な関係を議論するには至っていない。それは来年度の課題である。 (2)上記の実験を基に可逆過程のある素反応(増殖項について)による数理モデルの構築を行い、線形非平衡系において用いられるエントロピー生成量の定義を用いて計算を行った。具体的には、栄養濃度に依存した変数を考慮した数理モデルを用いた数値計算を行い、大腸菌パターン形成におけるスワムリングの特徴を再現することに成功した。しかしながら、パターン形成とエントロピー生成量の関係を導きだすことはできなかった。後者に関しては、保存則を適用しないエントロピー生成の計算を行っており、今後の課題となっている。
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