大腸菌の細胞個々の動きと細胞間の相互作用、そして集合した時のマクロな振舞など、各階層で観測される秩序形成は良く研究されている。また大腸菌のマクロな秩序形成は非平衡系におけるパターン形成の一例として知られている。しかし、大腸菌の振舞についてミクロからマクロを物理的に繋ぐ研究は少ない。本年度は、個々の大腸菌の動きの統計量とマクロな秩序構造の関係を明らかにすることを目的とした。具体的には、(1)走化性大腸菌、および、走化性のない大腸菌による伝搬するマクロなパターンの波頭伝搬速度の測定、(2)初期栄養濃度を変数とした個々の大腸菌の動きの観測によるマクロな物理量である有効拡散係数の同定、(3)上記の結果を取り入れた数理モデルの提案、を行った。 その結果として、(1)走化性大腸菌による伝搬するマクロなパターンの波頭伝搬速度は、初期栄養濃度と負の相関があることが分かった。走化性のない大腸菌の波頭伝搬速度は、初期栄養濃度に正の相関がある(もしくはほとんど依存しない)ことが分かった。またその伝搬速度は同一の条件において、2つ(伝搬速度が速い場合と遅い場合)取りうることが分かった。(2)個々の大腸菌の動きの統計量から、走化性大腸菌の有効拡散係数は栄養濃度に依存しないことが分かった。走化性のない大腸菌はその伝搬速度に依存して有効拡散係数が変化していることが分かった。(3)上記の結果を加味した数理モデルの提案を行った。特に走化性のない大腸菌の場合、上記(2)の実験結果より、有効拡散係数の違いが現れたことから、それを数理モデルに反映させた結果、実験結果を再現することに成功した。 最後に、上記実験結果、数値実験結果をまとめ、論文として投稿する準備をしているところである。
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