研究概要 |
2次元非粘性渦度方程式は,Diracのデルタ関数の集合で書かれる離散解(点渦解)を有する。点渦という「粒子」の集合が運動している系には,点渦同士の衝突に類する効果により実効的な粘性がでることが経験則として指摘され,平成22年度に粒子性に由来する衝突項を解析的に評価することに成功した。今回は,この結果をもとに,点渦系に対する運動論的方程式を導き,平衡状態への緩和がどのように行われていくのか,緩和時間などを含めて総合的に評価を行った。 当初,点渦系を記述する運動論的方程式にはFokker-Planck方程式の右辺に含まれる摩擦項が現れないと予想していたが,点渦系が同一の循環をもつ場合について詳細な計算を行った結果,摩擦項に対応する効果があること,および渦度ω(r)が,ω(r)=ω_0exp[-βΩ_0ψ(r)](ただし,ω(r):渦度場,ω_0:渦度の係数,β:逆温度,Ω_0:点渦の循環(定数),ψ(r):流れ関数)の形の分布になるとき,拡散項と摩擦項が釣り合い,Fokker-Planck方程式の右辺はゼロとなること,点渦数が無限大の連続極限で拡散項と摩擦項の効果は相殺してゼロとなることを明らかにした。また,点渦系は点渦同士の相互作用を決めるGreen関数が,長距離力である重力と本質的に同等であるため,点渦系の緩和時間は,重力多体系の緩和時間であるN^2に比例すると考えるのが一般的であったが,上記の結果は,点渦系の緩和時間がNに比例することを示唆している。 これら一連の結果は,点渦法という数値シミュレーション技法が,高レイノルズ数の流体系に向いた方法であることを明らかにしたという点で,大きな成果であると言える。
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