本年度では、非線形性の強い紐状多様体に対しても適用できる様にISOMAPを修正した学習手法(RANSAC-ISOMAP)を提案し、水滴カオス系のシミュレーションデータに応用した結果をICANN2011(ヘルシンキ)で発表した。 実際の非線形動力学の実験では、しばしば系の状態変数を直接には観測できない。例之ば、水滴落下現象では落下直前の水滴の質量が適切な変数であるが、実験では計測できるのは水滴の落下時間間隔τのみであり、τの時系列からは系の動力学法則を適切に記述することができない。そこで、状態変数の代理となる変数を多様体学習による座標系から構成することを試みた。そして、水滴系の数理モデルによるシミュレーションデータ、さらに実際の水滴落下実験系の時系列データ双方に提案手法を適用し水滴の質量の代わりとなる適切な変数を適切に抽出することに成功した。さらに、Lyapunov指数や位相エントロピー、時間相関関数など力学系を特徴付ける統計量をこの代理変数に関する力学系から正しく推定することに成功した。この結果を秦浩起氏、Ulrich Parlitz氏らとの共著論文としてまとめている。 さらに、これらの結果を踏まえ水滴落下現象のデータ同化(シミュレーションとデータ観測を融合したリアルタイム予測)に応用した。その結果をまとめたものを赤穂昭太郎氏、Parlitz氏らとの共著論文として執筆中の段階である。 また、実験によって、明瞭な周期倍化分岐やホップ分岐及びそれらからカオスが発生する様子などを実際に観測することができた。これらについても秦氏らと結果を整理している段階である。
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