研究課題/領域番号 |
22740262
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
秋元 琢磨 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特任助教 (30454044)
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キーワード | 統計力学 / 数理物理 |
研究概要 |
本研究では、微視的な力学系における観測関数の長時間平均を基にして、巨視的な観測量が本質的に揺らぐ非平衡現象の基礎付けを行い、エルゴード性の非平衡状態への拡張を目指している。平成23年度では、単一軌道の長時間平均を基にして、異常拡散(遅い拡散と速い拡散)における外場に対する応答理論について無限測度エルゴード理論を用いて明らかにした。具体的には、以下の二つの成果が得られた。1.遅い拡散における単一軌道を基にしたアインシュタインの関係の拡張、2.速い拡散における外場に対する応答が分布として現れる事を示した。 1では、トラップ時間がベキ分布に従う1次元ランダムウォークの力学系モデルにおいて、右左のジャンプ確率に非対称性を入れた(バイアスのある)ものを考えた。このモデルを用い、単一軌道毎に、バイアスがないときの拡散係数とバイアスがあるときのドリフトの大きさに関する関係式(アインシュタインの関係)を明らかにした。単一軌道から得られる拡散係数は、本質的にランダムになるため、通常のアインシュタインの関係は成立しないが、リアプノブ指数で割った輸送係数(拡散係数とドリフトの大きさ)に関して拡張されたアインシュタインの関係が成立する事を示した。この結果は、Phys.Rev.Eに掲載された。 2では、一方向に弾道的に動く時間がベキ分布に従うランダムウォーク(レビィウォーク)の力学系モデルを用いて、右左のジャンプ確率に非対称性を入れたときの応答(外場に対する応答)を調べた。遅い拡散では、長時間平均で定義された拡散係数が本質的にランダムになる事が示されているが、速い拡散では、長時間平均で定義される輸送係数のランダム性については明らかではなかった。本研究の成果として、速い拡散では、外場に対する応答は分布として現れる事を明らかにした。この結果は、Phys.Rev.Lett.に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、すでに5件の学術論文(Chaos1本,Phys.Rev.E3本,Phys.Rev.Lett.1本)が成果として得られている。これらの成果は、本研究の目的である「微視的な力学系における観測関数の長時間平均を基にして、巨視的な観測量が本質的に揺らぐ非平衡現象の基礎付けを行い、エルゴード性の非平衡状態への拡張」へ向けて研究が順調に進んでいる事を示している。特に、無限測度エルゴード理論を用いた異常拡散へのアプローチは、着実に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、力学系における不安定性(リアプノフ指数)の拡張を行い、異常拡散における力学的不安定性と輸送係数の関係を明らかにする事も目指している。初年度の成果として、リアプノフ指数の拡張を行なったが、まだ十分に一般化されていない事が問題である。今後は、リアプノフ指数の拡張を精密に行い、輸送係数との関係も明らかにする。具体的には、(1)リアプノフ指数におけるエイジングの影響を明らかにする、(2)一般の観測関数の長時間平均の普遍分布を明らかにする事が課題である。この二つの研究課題を遂行するため、数値シミュレーションと確率論(更新理論や連続時間ランダムウォークの理論)を用いて解析を行う。
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