液体による濡れを理解することは、流体物理学の基本的な問題の一つであり、塗装や防腐処理などの応用とも関係する重要な問題である。これまでの多くの濡れの研究は、固体面を濡らす静的な液体の三重線や接触角の性質を扱ってきた。一方、流れが存在し、三重線が動的に変形する場合、その流れの動力学や接触角の性質について解っていることは少ない。本年度は、シリンダの内壁を流れ落ちる細流の振る舞いに着目し、垂直に設置したアクリルパイプ内に流量を一定値に制御した脱イオン水を注入する装置を開発し、細流の振る舞いを実験的に調べた。流量が少ないとき、細流は直線的にシリンダ内を流れ落ちる。流量がある値を超えて増加すると、これまでに知られているように、細流は波状の軌跡を描いてシリンダ内を下降する。本研究では、さらに流量が増加すると、流れの軌跡がほぼ完全な螺旋パターンを描くことを、初めて明らかにした。また、螺旋のピッチがシリンダ内径dに比例すること、内径の関数としてプロットした臨界流量が、d=10mm付近に最小値を持つことを見いだした。さらに、界面活性剤SDSを流体に添加し、表面張力を系統的に変化させて、細流の振る舞いの変化を調べた。螺旋のピッチは、表面張力γが小さくなるにつれ長くなる傾向を持ち、γがある値を超えると、螺旋状の流れは現れなくなる。 細流が波状のパターンを描く臨界流量の値は、次元解析によって理解されることが知られている。同様の手法を螺旋パターンが現れる臨界流量に対して適用すると、表面張力の効果が正しく説明されないことがわかった。
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