強磁性相互作用するスピノルBECにおいて細かい磁区構造が形成される様子が2008年にUCバークレーのグループにより観測された。この磁区構造の起源を解明するために、平均場理論を用いて励起スペクトルとスピンの非線形ダイナミクスを調べた。その結果、定性的には実験と同様に細かい磁区構造ができるものの、磁区構造の空間スケールは3倍、構造の現れる時間スケールは10倍実験で観測されたものより大きく、平均場理論では定量的に実験を説明できないことが分かった。通常、平均場理論で用いるGross-Pitaevskii(GP)方程式は絶対零度でのダイナミクスを記述するものであるが、長時間のダイナミクスを調べて時間平均をとることでエネルギー一定の下での熱平衡状態の情報を得ることができる。本研究の結果は、実験で観測された磁区構造は非常に長寿命の非平衡状態で、かつ、熱原子との直接的な相互作用が必要であることを示唆している。 また、一般にスピノルBECの秩序変数はスピンFの場合に4F+1変数となりスピンが大きくなるほど複雑になるが、強磁性BECの場合は実質、3次元スピンの方位と凝縮体全体の位相という3つの変数で記述することができる(流体近似)。そこで、強磁性BECに対するGP方程式を流体近似を用いて書き下し、スピン期待値に対する運動方程式を導出した。さらに、前述の系に対して流体方程式を用いて安定性解析を行ない、Bogoliubov励起と一致する結果を得た。
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