研究課題/領域番号 |
22740265
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 由紀 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教 (00456261)
|
キーワード | 冷却原子 / ボースアインシュタイン凝縮 / スピンテクスチャ / トポロジカル励起 / 双極子相互作用 |
研究概要 |
今年度の成果は以下の4点である。 [1]強磁性相互作用するBECに対して平均場理論からエネルギー散逸のある場合のスピンの運動方程式を導き、古典スピンの運動方程式であるLandau-Lifshitz-Gilbert方程式となること見出した。ただし古典系と異なり、強磁性BECではスピンゲージ対称性から時間微分が超流動の速度場を含んだ物質微分として記述される。我々は双極子相互作用によるパターン形成のダイナミクスを数値的に調べ、超流動カレントがスピンのダイナミクスを加速させることを明らかにした。 [2]スピン1の強磁性BECは、磁場を変えることで磁化ゼロの相から部分的に磁化した相へと相転移を起こす。この臨界磁場が熱および量子揺らぎにより大きく変化することを見出した。これは、凝縮体との散乱によって非凝縮成分にもスピンコヒーレンスが生じ、それが平均場として凝縮相の状態を変えるためである。特に、量子揺らぎによる寄与は大きく、通常実験で用いられている希薄なガスであっても、平均場近似による臨界磁場から大きくずれることを見出した。 [3]磁気的双極子相互作用が大きい原子では必然的にスピンが大きくなる。スピン内部自由度が大きいと、ゼロ磁場下であっても基底状態の相図は非常に複雑になる。我々は、系の対称性から基底状態を求める方法をスピノールBECに対して構築し、具体的にスピン3のBECの基底状態相を同定した。これにより、先行研究では見落とされていた相を発見した。 [4]通常、トポロジカル励起は、その空間構造の次元によって、渦、モノポール、スカーミオンなどと分類され、その量子数はホモトピー群によりそれぞれ独立に定義される。しかし、スピン1のポーラー相のように、半整数量子渦が存在する場合にはモノポールの量子数は渦の存在によって影響を受ける。我々はその代数構造がアベホモトピーという新しいホモトピーで与えられることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的はスピノール・ダイポールBECの(1)磁性、(2)多体効果、(3)トポロジカル励起、の3点を解明することであった。(1)については古典強磁性体とのアナロジーからパターン形成のダイナミクスの解明や、超流動カレントの寄与の研究が順調に進んでいる。また、高スピン系での基底状態の磁性も明らかにした。(2)については、まず、双極子相互作用のない場合に、量子揺らぎの効果を検証し、平均場近似による予言から大きくずれることを明らかにした。(3)については、トポロジカル励起間の相互作用をアベホモトピーという代数構造で記述できることを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
双極子相互作用はスピンと軌道の自由度を結合させる相互作用であるが、近年、人工ゲージ場を用いてスピン・軌道相互作用を実装させるという実験が成功し、注目を集めている。スピンと軌道の結合という観点から、この系についても解析を行いたい。また、トポロジカル励起間の相互作用を解明するには、その欠陥の具体的な内部構造を知ることが必要である。この内部構造を調べるためにコア領域に対するホモトピー理論を展開する予定である。また、強磁性相互作用するBECはスピントロにクスの分野とも類似性が多く見出されるため、より具体的な比較を行っていこうと考えている。
|