以下の2つの研究を行った。 [1] ボース原子のボースアインシュタイン凝縮体(BEC)とフェルミ縮退したフェルミ原子の混合系において、ボソンとフェルミオン間に働くスピン交換相互作用により、フェルミ原子にスピン流が生じ、その性質が相互作用の強さによって可換から非可換へとクロスオーバーすることを明らかにした。フェルミ原子とボース原子が強く強磁性相互作用する場合には、フェルミ原子のスピンはBECの磁化構造に追従する。磁化構造に合わせてゲージ変換を行うと、フェルミ原子に対して実効的なゲージ場が生じ、それにより可換なスピン流が生じる。一方、強磁性相互作用が弱い場合には、BECの磁化構造とフェルミ原子のスピンはほとんど独立にふるまう。この中間領域において、非可換なスピン流が出現し、クロスオーバーが起こることがわかった。 [2] 双極子相互作用は磁気モーメント間に働く相互作用であるため、原子気体BECにおいては、自発磁化を持たない状態では平均場状態に影響を与えない。しかし、自発磁化を持たないBECであっても、励起スペクトルまで考えれば双極子相互作用の効果がみられる。本研究では、このような系においては、スピン・ホール効果として双極子相互作用が観測されることを明らかにした。スピン・ホール効果とは、粒子の流れとそれに垂直方向のスピン流との間に相関が生じることにより起こり、双極子相互作用がスピンと軌道の自由度を結合していることの帰結となっている。本研究では、具体的にナトリウム原子のBECに対してホール伝導度を計算し、実験方法等を議論した。
|