研究概要 |
本研究は、光合成エネルギー伝達系において、エネルギーのアクセプターであるバクテリオクロロフィル(BCh1)の電子状態を、プレパンプ光によって光変調することで、カロテノイドからBCh1へのエネルギー伝達経路を変化させる。その微小な変化量を、本研究で改良した超高速・高感度過渡吸収スペクトル測定によって評価し、光合成エネルギー伝達系における複雑なエネルギーの流れを明らかにすることを目的としている。初年度、コアアンテナLH1複合体において、BCh1を光変調することにより、カロテノイドの光学禁制準位S_1とS*の信号生成比が大きく変化するという、予想していなかった重要な結果が得られた。BCh1に対する変調量と、S*/S_1生成比を詳細に調尽ることで、カロテノイドのS_2からS_1,S*の緩和過程が、隣接するBCh1電子状態の影響を強く受けることを明らかにした。さらにこの結果から、S*状態が電子励起状態であり、三重項準位への前駆体であることを示した。本年度はこれをさらに進めるために、時間分解振動分光により、S*状態の物理的起源と三重項生成過程を明らかにすることを目的に研究を行った。ラマン励起光の共鳴条件を変化させることで、S*状態に由来するラマン散乱スペクトルを取得し、S*状態と思われていた準位がむしろ三重項状態の性質に近いことを明らかにした。
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