平成22年度は、1次元系において既に完成されている、時間依存半古典波動関数ADF-NVGの理論の、多次元への拡張を見据え、特異点付近における半古典波動関数の振舞いについて、2次元系における詳細かつ精密な数値的検討を行った。その結果、特異点近傍における半古典波動関数の振舞いについての問題点をほぼ解決した。この手法はより大きい次元に拡張可能であるため、実際的適用への困難が解決されたことになる。 定常状態の半古典波動関数は、古典軌道の転回点(turning points)で発散することが知られている。一方、既存の時間依存半古典力学手法には、causticsと呼ばれる、turning pointsとは異なる特異点が現れる。ADF-NVG理論における特異点の調査において、時間依存の半古典手法においても、causticsとは異なり、特異点としてのturning pointsを定義できることを発見した。Gaussian関数を用いた、この特異点の回避方法は既に確立されている。この特異性は、半古典力学の新たな側面であり、これを土台として時間依存の半古典手法を構築することが可能となる(投稿準備中)。平成23年度以降は、この手法の多次元モデル系、ならびに実在分子系への本格的な適用に着手する。
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