研究課題/領域番号 |
22740272
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 聡 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教 (20456180)
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キーワード | 分子動力学 / 半古典力学 / 化学反応 |
研究概要 |
平成23年度は、平成22年度に引き続き、1次元系において既に完成されている時間依存半古典波動関数ADFの理論の、多次元系への拡張に取り組んだ。特異点付近における半古典波動関数の振舞いについて、少数次元系における詳細かつ精密な数値的検討を行った。この理論の実際的な適用においては、特異点近傍における半古典波動関数の発散的振舞いの処理が困難であり、当初の予定よりも検証に時間を要したが、特異点の起源とその現れ方を特定した。この手法はより大きい次元に拡張可能であるため、実際的適用への困難がほぼ解決されたことになる。 既存の時間依存半古典力学手法には、causticsと呼ばれる特異点が現れる。ADF理論における特異点の精密な調査によって、このcausticsが、多次元系への適用においては、注目している古典軌道の近傍に作られる、向き付けられた体積要素がその向きを変える点であることを発見した。さらに、この体積要素の反転が、波動関数の発散と関連付けられることを数値的に確認した。この特異点の回避方法は既に確立されている。これを土台として、既存の手法よりも計算機的に負荷のかからない時間依存半古典手法を構築することが可能となる。最終年度である平成24年度は、発散を回避する手法の構築と、この手法の多次元モデル系、ならびに実在分子系への本格的な適用を、並行して行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度には、大きい分子系への適用に着手する予定であったが、平成22年度に引き続き、理論を適用する際の数値的誤差の評価、特異点の取り扱いの検証を、より精密に行った。その結果、研究の目的に記載した行程よりもやや遅れが生じてしまった。しかし、そのおかげでADF理論的な詳細がより明確になり、対処すべき問題点が絞られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、ADF理論の数値的適用の際に生じる問題点の抽出と解決に時間を要したため、当初の研究の目的に記載した行程からはやや遅れている。しかしながら、理論の基礎は既に確立されており、数値的適用における困難(特異性の現れる箇所)もほぼ特定されている。最終年度である本年度は、数値的適用の技術的な精密化と、実在系への適用を、同時並行で行うことで、可能な限りこの遅れに対応する。
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