平成24年度は、前年度までに引き続き、作用分解型波動関数Action Decomposed Functionに基づいて、波束動力学手法の基礎理論の構築に取り組んだ。その結果、対象とする物理系の古典力学的な情報から、量子化がどのような過程を経て行われるかの機構に関して、以下のように詳細な知見を得た:(1)運動量場の勾配を用いて、半古典極限の波束ダイナミクスが、古典軌道近傍の幾何学的情報をもとに記述できる。(2)カオスが存在する系においても、波束ダイナミクスの構築が可能である。(3)量子拡散の効果を取り込むことによって、量子性が再現される。(4)量子化には空間的に適切な方向が存在し、正確な波束の再現にはその方向を正しく考慮する必要がある。 これらの知見を踏まえて、少数多体系へのテストを現在進行中であり、結果は投稿論文としてまとめている。 本研究プロジェクトでは、当初、理論の完成から、大規模な実在分子系への適用と、多次元量子現象の解析を含めたプランを立てていた。そのため、結果的に理論構築と少数自由度系へのテストで終わってしまい、期間内に目標を全ての達成することができなかったことが、大きな反省点である。しかしながら、時間を掛けて理論的基礎の構築に取り組んだおかげで、量子化の物理的機構についての理解はほぼ完全に得られたと自負している。大規模系への適用による波束ダイナミクスの追跡、そして分子における動力学的現象の解明を、引き続き進めて行く予定である。
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