粘弾性測定や誘電応答測定は外力をかけた際の応答を測ることで試料の物性を調べる。線形応答理論に従えばこれらの測定で得られる応答関数はGreen-Kubo関係式によって分子運動の相関関数と関連づけることができる。そのため、高分子系における粘弾性や誘電応答はマクロな測定でミクロな分子運動の情報を得るための有効な手段である。しかしながらGreen-Kubo関係式は平衡状態以外では一般に成立せず、流動下(非平衡状態)の応答の解析方法は非自明である。 最近、非平衡系状態での線形応答理論がBaiesiらによって大きく発展させられた。しかし近年の理論の多くは応答関数からの相関関数の情報を得るためではなく、Green-Kubo関係の破れから非平衡性を特徴づけることを目的としている。そのため現状では流動下の高分子の応答挙動の解析のような用途への理論の適用例は極めて少ない。 そこで本研究では、近年の非平衡線形応答理論を流動下の高分子系へ適用することを試みた。また、流動下での高分子の運動モデルを考察し、非等方的な易動度(摩擦)の概念に基づいた簡易的運動モデルを新規に構築した。このモデルは平衡状態と流動下では高分子の運動性が本質的に異なり、特に流動下では流動場に沿った方向とそれ以外とで動きやすさが変化する効果を取り込んだものである。構築した非等方易動度モデルの線形応答挙動を解析した結果、実験的に得られている剪断流動下の応答と定性的に一致する挙動を再現できることがわかった。本研究の結果は簡易モデルに基づいたものではあるが、非平衡状態における高分子の運動を実験的・理論的手法で理解するために有用であると考えられる。
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