研究課題/領域番号 |
22740273
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
畝山 多加志 京都大学, 化学研究所, 助教 (10524720)
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キーワード | 高分子 / レオロジー / 誘電応答 / 剪断流動 |
研究概要 |
昨年度までに行われた研究により、剪断流動下の弱くからみあった高分子鎖の運動の記述や解析に非等方易動度モデルやそれに基づいた線形応答理論が利用できることがわかった。本年度は理論の精密化を目的とした研究および他の系へのモデルの適用を目的とした研究を行った。 理論の構造を検討した結果、流動下にある様々な系で非等方な運動が発現しうることがわかった。他の系へ非等方易動度モデルの適用として、末端に会合基を持つ新水性高分子(テレケリックポリマー)の水溶液系のレオロジー測定データの解析を行った。テレケリックポリマーは水溶液中でフラワーミセルと呼ばれる会合構造を形成し、高分子濃度がある程度高くなると過渡的なネットワーク構造を形成し、種々の特徴的なレオロジー挙動を示す。例えば、剪断速度の大きな非線形領域では剪断粘度が上昇するシアシックニング挙動を示すが、その機構はいまだ十分には理解されていない。本研究ではテレケリックポリマー水溶液系に非等方易動度モデルを適用することで、シアシックニングが非等方的な高分子の運動(非等方的なブリッジ構造の構築)によって引き起こされている可能性を示した。 また、理論を精密化しより現実的な実験データとの比較を行うため、レオロジーをよく再現でき単純な構造を持つモデルであるスリップスプリングモデルに非等方易動度モデルを組み合わせることを試みた。得られた新規モデルを用いたシミュレーションを行うことで、現実的なデータとの比較が可能なシミュレーションデータが得られるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究目的であった剪断流動下での誘電応答実験データの説明をするための非等方易動度モデルを開発し、モデルの性質を詳細に調べることができた。まだ実験データとの比較に直接耐えうるほどの十分な精度は持たないものの、非等方移動度モデル自体の持つ種々の性質や運動の非等方性がからみあった高分子系に限らず剪断流動下で一般に発現しうることといった興味深い結果が得られた。また、高精度なからみあいモデルと非等方易動度モデルを組み合わせたモデルの開発も行っており、シミュレーションの側面からの検証は現在進めている。
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今後の研究の推進方策 |
剪断流動下での高分子の運動の定性的な側面については昨年度までの研究で概ね満足できる結果が得られている。また、流動下における運動の非等方性の一般性についても、テレケリック高分子水溶液系の実験から興味深い結果が得られている。ただし、これまでの本研究の結果は主に定性的議論を中心としたもので、定量的議論は未だ不十分である。また、これまでのモデルの解析から、解析的方法のみで定量的議論を行うのは困難であることが推測される。従って、今後の本研究の進行方策としては、主に既存の高精度シミュレーションモデルに本研究で開発した非等方易動度モデルの連携を目指す。実験で得られている各種レオロジーデータ等を定量的に再現するモデルを採用し、運動の非等方性を取り込むことで、定量的議論に耐えるモデルを構築する。
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