研究概要 |
QM/MM法と3D-RISM-SCFの連成計算プログラムコード(QM/MM/RISM)の開発,および高度化を前年度に引き続いて行った。また,化学反応の反応経路探索のための手法の組み込みを行った。 また,本プログラムを用いて,Coumalin153のストークスシフトに関する研究を行った。Coumalinは電子励起における溶媒効果を見るためのプローブとされている物質である。この研究ではCoumalin153の基底状態および第一励起状態の電子状態について詳細に解析し,溶媒の静電的・分子的特徴と溶質の電子状態変化の相関をみた。また,得られた理論的結果と実験との対応をつぶさに行い,これまで曖昧であった溶媒相関を明快に説明することに成功した。この成果はJournal of the Physical Society of Japanに掲載が決定している。 また,3D-RISM理論に基づいて得られた3次元溶媒分布関するから,溶媒分子の配置を予測するアルゴリズムの開発を行った。3次元溶媒分布は溶媒の分布確率を表す連続的な関数であることから,自由エネルギーなどの物理量の計算に必要な量であるが,一方で単純に分子位置を把握することが難しかった。そこで,本アルゴリズムでは分布関数を基にして,もっとも存在確率の高い位置から順番に溶媒分子を配置することでもっとも"ありそうな"配置を決定することができる。得られた溶媒配置は実験で観測されたものと良い一致を示した。このアルゴリズムは単にDNAの水和・イオン配置を予測するだけでなく,分子シミュレーションやタンパク質構造予測の分野への波及効果も期待できる。現在,この手法に関する論文はJournal of Computational Chemistry誌に受理されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では実際のDNAの電子移動の解析を行うはずであったが,プログラムコード開発の遅れ,震災による予算配分の遅れによる計算機調達の遅れ,また,異動による多忙によりそこまで到達できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,プログラムコード開発を早期に終了し,実際の計算に移る。また,現状のプログラムコードで可能な解析については,既に解析を始めている。また,研究計画段階では無かった別の解析手法の検討(FMO/RISM およびLCMO-FMOの組み合わせによるDNA電子移動解析)も行う。
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