本研究では、これまで難しかった広域空間領域の測定(数~数百オングストローム)が可能になった日本原子力研究開発機構J-PARCセンター・物質生命科学実験施設に設置されたパルス中性子小角散乱装置(大観)を用いて、蛋白質水溶液の測定に行なうことで、水溶液中の蛋白質の構造解析、特に内部構造について詳細な知見得ることが目的である。本年度は、ミオグロビン、βラクトグロブリン、およびヘモグロビンの内部構造の異なる3種類の蛋白質溶液の測定を行なった。ミオグロビンおよびβラクトグロブリンの内部構造は、それぞれヘリックス構造およびβシート構造を主構造に持つ蛋白質であり、散乱ベクトルq=0.1-1.5[Å^<-1>]付近にそれぞれの内部構造に起因する散乱プロファイルが観測された。ヘモグロビンは単体ではミオグロビンと類似の構造であるが、四量体で構成されている蛋白質であり、広いq領域に対して階層的な散乱プロファイルが得られた。これらの蛋白質はX線結晶構造解析により原子の3次元座標データが得られており、その座標データより散乱プロファイルを計算することができる。今回測定した水溶液中の蛋白質の広域空間領域の散乱プロファイルと比較すると、low-q側では比較的一致しているが、high-q側では一致しない領域が観測された。今後high-q側において影響が考えられる蛋白質と水和水の構造を含めた解析法を検討し、high-q側での計算値との違いを明らかにしたい。
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