研究概要 |
本研究は,これまで扱われることの無かった衛星における磁場発生機構,特に磁場の発生源となる金属核の形成過程を数値解析的手法によって調査し,それを通じて「太陽系固体天体の磁場生成」という重要課題に新たな知見を得るのが目的である。当該年度では,衛星内部分化史の違い(ガニメデは金属核とそれ起源の固有磁場を持った明瞭な内部分化状態にあるのに対し,カリストは金属核を持たず固有磁場も無い)を説明することを目的として前年度までに構築した内部熱史に関する数値シミュレーションコードを拡張し,ガニメデやカリスト以外の衛星,特に両衛星の(大きさ,平均密度での)中間的性質を持つ土星の衛星タイタンにも適用し,太陽系に存在する3つの巨大(直径5000km級)衛星の金属核形成史とその違いについて,含水鉱物の脱水化の有無に着目して考察した.タイタンはその大きさと平均密度(すなわち内部の岩石含有量)がカリストよりガニメデに近いことから,慣性能率を満たし得る内部岩石含有量の範囲においてタイタン内部はガニメデと同様に金属核を形成しやすいことが示された.惑星サイズの3衛星の内部熱構造進化史を統一的に議論した研究はこれが初めてであるが,一方でタイタンの慣性能率がガニメデより大きいことは内部分化(金属核形成)が不十分であることを意味するという先行研究の見解や,ガニメデが持つ金属核起源の固有磁場がタイタンでは見つかっていない事実を鑑みると,注意を要する結果である.すなわち,放射性熱源量の違いと含水鉱物の脱水化(粘性率の急増)という要因だけを考慮した現状の進化モデルでは不十分であることを示唆しており,改良の余地がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
衛星の内部分化史の違い(金属核の有無)を説明するために,含水鉱物の脱水化に着目した数値シミュレーションコードを開発してきたが,脱水化に伴う様々なプロセスのうち粘性率の急変のみを考慮したこれまでの枠組みでは不十分である(本質的な寄与を果たすプロセスが他にも存在する)ことが見えてきたため,脱水反応熱や脱水の移流による熱輸送,脱水に伴う初期岩石・金属混合核の収縮などを追加考慮したシミュレーションコードへと発展・改良させる必要があり,この構築作業に従来の見積もりよりも多くの時間を要しているため.
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今後の研究の推進方策 |
上に記載した数値解析コードの発展・改良作業を本年度第一四半期を目途に完了させ,その上で,当初の計画にあった衛星間のパラメタスタディの再実行を行う.得られた成果は,8月にシンガポールで行われるアジアオセアニア地球科学会や,10月にスペインで行われる欧州惑星科学会,12月に米国サンフランシスコで行われる米国地球科学会の秋季大会等で報告する.同時に論文投稿を行い,総括する.
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