木星衛星ガニメデは太陽系最大(半径2600km)にして金属核起源の固有磁場を持つ唯一の衛星だが,磁場の有無以前にガニメデが集積熱のみで金属核を分化させることは理論的に困難である.これは氷衛星が地球型惑星と決定的に異なる点であり,現在のガニメデ内部が長期進化の途上で核形成(内部分化)を経た可能性が示唆される.そこで本研究では,ガニメデの初期内部進化を数値シミュレーションによって調べた.木星系形成領域は雪線の外側にあったと考えられるため,原始ガニメデは含水鉱物と金属の混合状態で集積したと仮定する.その後の長寿命放射性熱源による加熱とそれに伴う様々な物性変化を考慮し,内部分離とくに金属核形成の時期や核サイズをアウトプットとした数値実験を行った. その結果,形成から10~20億年後にガニメデ内部温度が金属成分の共融点に達し,金属核形成が行われることが分かった.これほどの時間がかかるのは,主に含水鉱物がもつ柔らかなレオロジー(高い熱輸送効率)に原因がある.またその過程で発生する含水鉱物の脱水化は衛星全体の大きな体積増加をもたらし,ガニメデ表面に見られる表面伸張性地形の原因として有力であることが示唆された. 一方,ガニメデとほぼ同サイズだが固有磁場(金属核)を持たない衛星カリストについても同様の数値実験を行ったところ,ガニメデよりわずかに小さいサイズと平均密度(すなわち放射性熱源量)が主因となって内部温度が金属成分の共融点に達せず,金属核形成が困難であるという調和的な結果を得ることもできた. 以上の結果から,氷衛星の金属核形成はサイズの小ささに起因する集積エネルギーの不足と,含水鉱物のレオロジーが高い障壁となって内部加熱が進みにくいこと,そして衛星ガニメデは大きさと平均密度からその障壁を越えることができた太陽系唯一の衛星であることが見出された.
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