衛星海面高度データ、北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸・学術研究船白鳳丸による海洋観測データ、Argoフロートデータを用いて、キーナイ渦の伝播特性および変質過程を調べた。キーナイ渦は、北太平洋東部亜寒帯域北岸に位置するキーナイ半島南方で形成され、アラスカンストリームに沿って西方に伝播する海洋中規模高気圧性渦のことである。データ解析の結果、2006年12月に形成されたキーナイ渦は分裂しつつもアラスカンストリームに沿って西方に伝播し、180°付近に達することが示された。Argoフロートデータ解析からは、冬季混合層過程や水平貫入などによって渦中心付近の水塊が変質する様子を捉えることができた。特に渦形成直後に渦中心付近に存在していたArgoフロートにより、渦形成直後の冬季混合層過程により渦中心付近の水塊が大きな変質を受けることが示された。また、おしょろ丸・白鳳丸による渦横断観測により、上記水平貫入水の起源は北太平洋亜寒帯外洋水、および渦南縁付近に存在し沿岸水と外洋域水の中間の性質を示す遷移域水であることが示唆された。外洋水・遷移域水が水平貫入した層はその上下層より1℃以上も低温であることもあり、渦形成時に獲得した高温の中層水塊の低温化に寄与していると考えられる。 さらに本研究では、おしょろ丸2010年度60日間航海において、北太平洋亜寒帯域中西部に存在する中規模渦の横断観測を実施し、渦の断面構造を捉えることに成功した。衛星海面高度データ解析から、本航海で観測された渦はアリューシャン列島南岸で形成されるアリューシャン渦であることが示された。
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