2010年7月に実施した北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸60日航海における海洋中規模渦横断観測によって得られた動物プランクトンデータを解析することにより、アリューシャン列島南方で形成された中規模渦(アリューシャン渦)が動物プランクトンのカイアシ類の分布に与える影響を調べた。その結果、アリューシャン渦内外でカイアシ類の個体数や発育段階が異なることが示され、アリューシャン渦内における高い生物生産がカイアシ類の分布や発育段階に影響を与えていることが示唆された。また、アリューシャン渦内に分布していたカイアシ類はおおむね外洋性の種であることが示され、その原因としてアリューシャン渦が比較的外洋で形成されたことや、おしょろ丸による観測前に渦―渦相互作用が生じていたことなどが推測された。以上の成果は、2013年度PICES年次総会で口頭発表、国際学術誌Journal of Plankton Researchに受理・出版された。海洋中規模渦が生態系に与える影響に関しては、国内外で様々な研究が実施されているが、その多くは中規模渦が植物プランクトンに与える影響に関する研究であり、バイオマスとしても重要な動物プランクトンであるカイアシ類の分布や発育段階に海洋中規模渦が影響を与えていることを示したという点で、本研究は学術上大きな意義を持つと考えられる。なお、本研究は東京大学大気海洋研究所齋藤類博士(日本学術振興会特別研究員-PD)・北海道大学大学院水産科学研究院山口篤准教授らとの共同研究として実施したものであり、本課題代表者は、アリューシャン渦横断観測の企画・実施、衛星海面高度データを用いたアリューシャン渦の形成・伝播経路の解明を担当した。
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