研究概要 |
平成22年度は雲対流モデル用放射スキームの開発とCO2雲微物理過程のモデル化を行なう予定であったが,これまで開発してきたモデルの簡易放射スキームと凝結スキームに問題があり,内部エネルギーが一方的に増大し,大気成分であるCO2(気相・固相)の全質量が保存しなくなってしまうことが判明した.そこで平成22年度はエネルギー収支と質量収支が合うように放射スキームと凝結スキームを修正し,これまで行なってきた数値実験の再計算を実施した. 従来の放射スキームでは放射伝達方程式を陽に計算せず,放射強制は水平一様な加熱・冷却で表し,加熱量の鉛直積分が0になるように加熱・冷却率の鉛直分布を決めることにしていた.この加熱量の鉛直積分の精度を向上させることによりモデルのエネルギー収支を改善した.質量収支については,中心差分に基づく移流スキームによって生じる負の雲水量の補正方法に問題があり.これを改善することでCO2質量の保存性を満たすようにした.これらの修正により.系が統計的平衡状態に達するまでの長時間数値計算が可能となった. これまで行なってきた数値実験の再計算として,計算領域を鉛直に20km,水平に50kmとり,現在の火星極冠周辺の温度分布を想定した鉛直温度分布を持つ静止大気に温度擾乱を与え,CO2雲対流を生じさせる計算を行った.臨界飽和比(凝結が始まるときの飽和比)が1.0の場合,統計的平衡状態においては高度7kmから計算領域上端まで水平にほぼ一様な雲層が形成され,鉛直流は地表面から雲層上端まで達する.解析の結果,気塊が雲層内で失うよりも多くの浮力を乾燥域で得られれば,強い鉛直流が生じることが分かった. 主成分が凝結する火星大気では,臨界飽和比が1.0の場合は温度構造はCO2の飽和蒸気圧曲線によって決まってしまうために浮力が得られず,鉛直流の大きい湿潤対流は生じないと従来考えられてきた(Colaprete et al., 2003).本研究で得られた結果はこのような従来の描像とは大きく異なる.また,鉛直流が生じるメカニズムは,微量成分が凝結する地球・木星大気の場合(気塊が雲層内で浮力を得ることで強い鉛直流が生じる)とは異なる.地球および木星とは異なる形態の湿潤対流が存在する可能性が示されたことは比較惑星学的に極めて重要である.
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