研究概要 |
平成23年度は過飽和状態を許容するCO2雲微物理過程をこれまで構築してきた数値流体モデルに実装し,小規模な予備的数値実験を行った.具体的には臨界飽和比(雲の存在しない領域で凝結が始まるときの飽和比)を変えた実験(実験Aと呼ぶ),雲粒の落下・雲粒の荷重効果を考慮した実験(実験Bと呼ぶ)を行なった. 実験Aでは,大気主成分凝結対流の運動構造が臨界飽和比に対しどのような応答を示すかを明らかにすることを目指した.但しモデルの簡略化の為,雲粒の落下・荷重効果は無視する.計算領域は水平50km,鉛直20km,初期に現在の火星極冠上を想定した飽和状態にある温度・圧力分布を与え,地表面温度は一定とする.臨界飽和比はパラメータとして与え,その値は1.0と1.35とした.両実験の統計的平衡状態において,鉛直流の大きさが0.1m/s以上の領域は高度約1km以下にのみ見られ,鉛直流速の最大値は約0.5m/sであった.また雲は最下層から高度15kmまで層状に分布する.以上より雲粒の落下・荷重効果を無視した場合,臨界飽和比の値に依らず気塊は浮力を得られず,対流場のパターンは両実験でほとんど変化しないことが示された. 実験Bでは実験Aと同じ計算領域・初期条件・境界条件の下,雲粒の落下及び雲粒の荷重効果を考慮した数値実験を行なった.統計的平衡状態において,鉛直流の大きさが1.0m/s以上の領域は高度約2km以下にのみ見られ,鉛直流の最大値は約3.0m/sであった.気塊の浮力は主に雲粒の落下及び荷重効果によって得られ,実験Aと同様に温位偏差による浮力はほとんど得られない.以上より,雲粒の落下及び荷重効果は地球の雲対流と同様,主成分凝結対流場のパターンに大きな影響を及ぼすことが示された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を今後進める上で最も重要な問題となるのは,雲と放射の相互作用を対流モデルにどのように考慮するか,である.先行研究で用いられた放射モデルは対流モデルに組み込むには計算効率が良くないので,何らかの簡略化が必要になる.その方法については,大気循環モデルと大気放射モデルに造詣の深い北海道大学,および神戸大学の惑星大気研究者に技術提供を依頼し,検討を行う予定である.
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