本研究は地表から成層圏の水蒸気を高精度に測定できる水蒸気センサーの開発を目的とし、ラジオゾンデ用のペルチェ冷却方式の鏡面冷却式露点計の開発に取り組んできた。昨年度までに試作機を製作し複数回の飛揚試験を実施した結果、低水蒸気濃度領域の上部対流圏・成層圏におけるPID制御パラメータの調整に課題が残ったものの、開発機は地表から成層圏の水蒸気を測定できる能力を有することが確認できた。しかし、これまでの試作機は工業用に設計された鏡面冷却式露点計FINEDEW(アズビル株式会社)のセンサプローブを流用してきたため、必ずしも高層気象観測に適した形状にはなっていなかった。今年度はまず、将来的に明星電気株式会社にて量産化することを踏まえ、軽量化、省エネ化および低コスト化を目的としたハードウェア・ソフトウェアの全面改良を行った。これにより、開発機の装置重量は冷媒冷却式の鏡面冷却式露点計CFHの半分以下の約300gまで軽量化することができた。また、昨年度に続き、インドネシアBiak島にてCFHとの同時比較観測を実施した結果、高度15km以下では両センサーによる露(霜)点温度が±0.5℃以内でよく一致することが確かめられた。 また、開発機との比較測定等により、現業の高層気象観測用のラジオゾンデRS-06Gの相対湿度計が系統的誤差を持つことが昨年度明らかとなったため、この誤差の補正法の開発を行った。 さらに、大気中の水蒸気は液相・固相の状態である雲粒子としても存在するため、鏡面冷却式露点計の開発と並行して雲粒子の数密度、粒径および相を測定できる雲センサーの開発にも取り組んだ。国内およびインドネシアでの飛揚試験の結果、中緯度の下層雲や熱帯対流圏界面付近の巻雲を検出することが確認できた。 本研究で開発した水蒸気・雲センサーは、気候監視や水蒸気・巻雲の科学などにおいて非常に有力なツールとなる。
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