リアルタイムでの単一粒子の形状分析法はエアロゾル計測技術開発の先端的トピックの一つである。従来のリアルタイムの単一粒子の形状分析技術は例外なく光散乱の原理に基づいたものである。実大気エアロゾルは様々な屈折率をもつ物質が複雑に外部・内部混合している粒子集団であり、光散乱のみから抽出できる粒子形状の情報は非常に限られている。したがって、現在の原理的な制約による限界を大幅に拡張するためには、従来の光散乱法と相補的に用いることが可能な、新規の独立な原理の開発が必要である。Rytov(1953)の一般化キルヒホッフの理論によれば、粒子形状と放出される熱輻射光の方位・偏光依存性には理論的に推定可能な関係がある。もし一般化キルヒホッフの理論が正しければ熱輻射光(白熱光)の方位依存性・偏光状態を観測することにより個々のエアロゾルの形状を分析することが可能である。しかし、この理論の実証を試みた研究は物理学・工学の分野を含めてこれまでにない。本年度は新たに考案・開発した実験装置と理論により、一般化キルヒホッフの理論の検証を行うことを試みた。粒子形状が既知のポリスチレンラテックスの2球クラスターを用いて、装置の応答と粒子形状の関係を記述する理論の妥当性を検証した。板状のグラファイト粒子について計測された散乱光・熱輻射光の方位・偏光依存性は、板状の回転楕円体粒子についての理論計算の結果と非常によく一致した。この結果は一般化キルヒホッフの法則を実証する初めての結果である(学会発表済み)。本年度の研究成果はAerosol Science and Technology誌に投稿し、2011年4月1日現在、査読中である。
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