大気中の黒色炭素(BC)エアロゾル(微粒子)の形状の分析法の開発は、人為起源エアロゾルの気候影響や微粒子計測技術の分野では最先端かつ重要な研究課題である。本研究では、これまで未検証だった微粒子からの熱輻射の一般理論を実験的に検証し、BCの形状分析が可な新しい原理を提唱した。 本年度は、光波長よりも小さなサイズの微粒子について、放出される熱輻射光の方位依存性・偏光状態が粒子形状によって決定される物理現象を実証した。このために、レーザー照射により高温に加熱した形状既知の微粒子の熱輻射光の方位依存性・偏光状態を測定し、理論計算と照合した。単一粒子から放出される熱輻射光の強度の方位依存性・偏光状態を同時に測定できる「偏光分離型レーザー誘起白熱法」の実験装置を開発した。この実験装置で、薄い板状の形をしたグラファイト微粒子を計測した結果、測定結果は、板状粒子から放出される熱輻射光の方位依存性・偏光状態をロイトフの熱輻射理論を用いて計算した予測結果と非常によく一致した。これは、波長よりも小さい微粒子からの熱輻射現象を理論・実験の両面から整合的に解明した世界初の結果である。ロイトフの理論は、波長よりも小さな物体から放出される熱輻射光を定量的に予測できる現在唯一の物理理論であるので、本研究による検証の成功は、BCの形状分析への応用に限定されず科学技術全体においても普遍的意義のある成果だと考えられる(発表論文1)。
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