夏季に発生する落雷の特性とそれを規定する雷雲の雲微物理構造を調べるため、本研究では落雷特性が顕著な対流雲(1.負極性落雷が卓越した事例、2.正極性落雷が卓越した事例、3.落雷数が少なかった事例)を対象として研究を実施した。研究に用いた主なデータは、偏波ドップラーレーダーデータと落雷データである。平成22年度には、台風の中心付近で発生し、正極性落雷の発生率が著しく高かった雷雲の構造を調査した。落雷が激しかった期間には湿ったあられが対流雲上空の0度から-20度の領域に広がっており、この湿ったあられが正に帯電したことで正極性落雷が卓越したことを指摘した。平成23年度は、豪雨をもたらしたにもかかわらず落雷がほとんど発生しなかった対流雲について解析を行った。雲内の偏波パラメータと気流の特徴から、この対流雲では0度高度以下における暖かい雨の過程が卓越しており、雨滴の併合成長が活発であった一方で、対流雲の上空では、雲内の電荷分離に貢献するあられの発生が顕著ではなかったことを明らかにした。当該年度は負極性落雷が卓越した数事例の雷雲の構造を調査した。特に、夏季の関東地方で、偏波レーダーで2分間隔の高時間分解能観測を行い、落雷が活発な事例と不活発な事例の、雷雲発生から発雷までの時間発展の違いに注目して研究を行った。落雷が不活発な雷雲は、レーダーでエコーが検知されてから発雷まで約30分を要したが、落雷が活発な雷雲は約10分で発雷に至った。あられの存在が示唆される領域も10分程度で形成されており、非常に短時間で雲内の電荷分離に関わる降水粒子が形成され成長したことが明らかになった。本研究課題で得られた成果は、偏波レーダーによる高時間分解能での雷雲の雲微物理構造の監視が、今後の落雷危険度予測技術の開発において非常に有効であることを示唆している。
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