太陽風MHD波動による非平衡プラズマの生成過程の体系的な理解を目的として、以下のような研究を行った:(1)運動論―磁気流体系のハイブリッドモデル(球座標Vlasov-MHDモデル)を用いて、大域的な非一様性を持つ太陽コロナ・太陽風プラズマにおけるMHD波伝搬の非定常シミュレーションを、人工的な粘性・抵抗項を含まない形で実行した、(2)(1)においてMHD波の有限な周波数スペクトル幅の効果で平行伝搬波動においても伝播過程において波の急峻化が生じ、それに伴ってイオンの加速・減速が生じることを確認した、(3)多次元 Vlasov-MHDモデルの理論解析を進め、低ベータ・小伝搬角の範囲では定量的に妥当な評価が可能であることを示した、(4)運動論アルヴェン波と非単色MHD波の非線形相互作用過程の解析のパラメータ研究を進め、2桁以上波数が異なる場合もMHD波の減衰が生じることを確認した。(1)と(2)は球座標・開放系における大振幅MHD波の非線形発展を非アドホックな運動論効果を含めて直接数値計算を行った先駆的な業績である。(3)と(4)は太陽風MHD波動の非線形発展過程の解明に寄与する結果である。特に、(3)を通じて過去の理論モデル間の関係が示された意義は大きく、当該分野の物理モデルの成熟への寄与が期待される。また、現時点で未公表の結果であるが、球座標Vlasov-MHDモデルの直接数値計算において(5)現象論的にイオン・電子の緩和効果を導入した場合、イオンの運動論的振る舞いが抑制されること、(6)太陽方向に伝搬する成分が周波数スペクトル幅以外のパラメータ(初期の振幅・ベータ比)にも依存して変化すること、を確認した。また、(7)大規模MHD計算データを用いたテスト粒子計算を行い、v×B項のみではVlasov-MHDモデルで観測された非平衡プラズマの生成が起こらないことが確認された。
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