本研究の目的は、下部地殻岩石の変形強度及び弾性波速度特性に及ぼす部分溶融(メルト)の影響を調べることにあるが、今年度は部分溶融しない条件下での、下部地殻を構成する主要構成鉱物である斜長石の強度および弾性波速度を調べることを目的に研究を行った。そこで、今年度は、東北大学現有のGriggs型試験機を弾性波速度測定が可能なように改造した。また圧力容器、実験アセンブリを、超音波測定が可能なように改造した。試料には、下部地殻を代表する鉱物である斜長石からなる斜長岩(灰長石成分100のガラス粉末を真空で焼結したもの)のドライ多結晶体を使い、含水下で斜長岩の塑性変形強度を調べた。含水量が0.2wt%の実験では、ドライの試料に比べて、顕著な軟化は見られないが、鏡下においては、円筒形試料の表面部分にのみ著しい塑性変形が認められた。この部分は、強い格子定向配列(LPO)を持つことから、含水下にて試料表面に拡散した水が、局所的な塑性変形を促し、塑性歪が表面に集中したと考えられる。一方、約1wt%の水を加えた実験では、著しい強度の低下が見られたが、回収した試料には、強いLPOの発達に加え、多数のクラックの発達が見られた。このことは、1.2GPa、900度において、1wt%の水は、斜長岩の水圧破砕を引き起こす可能性があることを示唆している。さらに、下部地殻岩石のこれまで報告されている下部地殻岩石の構成則を使い、東北日本弧の強度分布を作製した。地震学・岩石学的に推定されている地殻の構造をもとに推定された粘性率は、1896年に起きた陸羽地震後の余効変動から推定される粘性率に比べて1~2桁ほど高いが、下部地殻での部分溶融体や細粒岩石の存在を仮定することでこの差を説明できる可能性を指摘した。以上から部分溶融体などの低強度帯への歪集中は、地震後の余効変動に大きな影響を持つ可能性を指摘した。
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