研究課題/領域番号 |
22740328
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武藤 潤 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40545787)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 岩石変形実験 / 下部地殻 / 部分溶融 / レオロジー / 固体圧変形試験機 |
研究概要 |
本研究では下部地殻の主要構成鉱物である斜長石の変形特性に及ぼすメルトや水の効果を明らかにするために、無水の人工アノーサイト多結晶体に、微量の水(0.1~0.5wt%)を導入させながら流動特性を調べた。細粒で5 vol%のシリカリッチなメルトを含む多結晶体を、固体圧試験機を使い900度、封圧1 GPa で剪断変形実験を行った。0.1-0.3wt%の水を加えた実験では、差応力がドライの試料と同程度の1000 MPa まで達するが、0.5 wt%の水を加えたときのみ、顕著な弱化が見られた。回収試料の微細組織観察から、添加した水が少ないほど破砕流動が卓越することが明らかになった。0.5 wt%の水を添加した試料では塑性変形が卓越しており、歪の局所化も認められた。赤外分光法面分析から、流動強度の低い試料ほど高い含水量を持つことが明らかになった。また鏡下にて歪の局所化の認められた領域は周囲より高い含水量を持つことも明らかになった。このように、 微小試料内においても、含水量の不均質性によって、脆性変形から塑性流動までの変形機構の遷移が認められた。また軸圧縮変形実験により得られた試料の赤外分光法面分析を行い、実験条件下での水の拡散係数を決定した。水の拡散に伴い歪軟化を起こした領域の含水量分布から、一次元拡散方程式を用いて得られた拡散係数は、これまでに報告されている長石中の粒界での水の拡散係数と調和的であった。従って、水の存在する下部地殻条件下において、メルトを含む細粒斜長石多結晶体の変形は、水の粒界拡散によって律速されていることを示唆する。以上から、断層周辺に存在する高圧の間隙流体がメルトを含む断層岩の粒界を通じ断層中へと供給され、その濃度に応じて、変形挙動が変化することが推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は固体圧変形試験機を用いて、下部地殻岩石の変形実験と弾性波速度測定を行うことで、レオロジーと弾性波速度特性に及ぼすメルトの効果を定量的に評価することが当初の目的であった。これに対して、これまでの成果から、下部地殻の主要構成鉱物である斜長石のレオロジー特性に及ぼすメルトや水の効果を明らかにしつつある。一方、弾性波速度測定において、固体圧変形試験機の特性から、静水圧性が悪く弾性波速度に及ぼすクラックの効果が高圧まで現れる事がわかった。従って、発生圧力は低いが、静水圧性の高いガス圧変形試験機を用いた弾性波速度測定システムの構築に着手した。透過法を用いた測定アセンブリを作成し、斑レイ岩を用いた予察的な測定を行った。弾性波速度測定からは封圧100MPa以上での弾性波速度は、理論的に得られる岩石の圧力効果から計算される速度によく一致することから、100MPa以上ではクラックの効果は無視できることを示している。この値を高圧側に外挿することで高圧下においてもクラックの影響を無視した弾性波速度の推定が可能となった。当初の目的であった変形実験中の弾性波速度測定という目的は達成できてはいないが、両者を個別に評価出来る環境は整った。
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今後の研究の推進方策 |
固体圧岩石変形試験機を用いて、昨年度と同様に下部地殻を構成する岩石の変形実験を行う。今年度は、メルトを全く含まない斜長石多結晶体を新たに合成し、変形試料として用いる。真空焼結法により、メルトおよびポア・亀裂などを含まない斜長石単一相からなる多結晶体を合成し実験試料とする。この試料を用いて、これまでと同様な含水下での変形実験を行うことで、塑性流動強度に及ぼす添加水量、含水条件下での保持時間、ひずみ速度などの効果をメルトを含む斜長石多結晶体との比較を行う。変形試料は、電子顕微鏡および電子後方散乱分析 (EBSD)を用いて、微細組織を観察する。さらに、含水条件下で変形させた試料は、顕微赤外分光法を用いて、回収試料の含水量を測定し、含水量の空間変化と変形組織の比較を行う。円筒型に合成した試料を使い、軸圧縮試験を行う。軸圧縮実験では、高圧・高温、含水下で保持する時間を変えることで、試料への水の拡散量を変化させ、塑性変形量とこれらの関係を明らかにする。また顕微赤外分光マッピングによる含水量分布の測定から、水の拡散係数を決定し、今年度までに得られているメルトを含む斜長石多結晶体中での水の拡散係数との比較を行う。高圧下での弾性波速度測定用の圧電素 子の封入可能なアセンブリの改造を行う。低温・高圧下での測定後、素子の改良を行い、徐々に実験可能温度の上昇を目指す。これまでに本課題を通して得られたドライ、ウェットやメルトを含む条件で得られた斜長石多結 晶体の強度を既存の研究結果と比較することで、下部地殻岩石の強度における水、メルトの効果を評価する。得られた結果を典型的島弧である東北日本弧に応用し、下部地殻強度及び岩石学的構造について議論する。上記で 得られた結果は適宜まとめ、国際・国内学会、論文にて公表する。
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