下部地殻の流動特性に及ぼす水の効果を明らかにするために、水が存在する環境下での下部地殻の主要較正鉱物である長石多結晶体の塑性流動特性についての検討を行った。無水の人工アノーサイト多結晶体に、最大0.5 wt%の水を外部から導入させ流動特性を調べた。出発試料は、真空焼結法により作成したもので、粒径が1-3μm、粒界にシリカに富むメルトを最大6%含むものと含まないものの二種類を用いた。固体圧変形試験機を用いて、下部地殻条件下(封圧1GPa、温度900度)で行われた変形実験から、水の存在下で無水の長石多結晶体試料の強度が低下することが明らかになった。含水下での強度の低下量は、外部から加えた水の量に比例しひずみ速度に反比例する。またメルトを含むものは同じひずみ速度でもメルトを含まないものに比べ、強度低下が大きい。微細組織観察とFTIRを用いた含水量測定から、メルトを含む試料および含まない試料の両方において、塑性ひずみの局所化と含水量の不均質性が認められ、微小試料内においても、含水量の不均質性が粘性率の変化を引き起こすことを示唆している。従って、天然の断層帯においても、水の非平衡な拡散に伴い、変形挙動やレオロジー特性(粘性率など)が変化することが推察できる。またメルトを含む試料の方が強度低下が大きいことから、含水条件においてはメルトを含む下部地殻のほうが大きな強度低下を引き起こす可能性が示唆された。
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