研究概要 |
本年度は縞状鉄鉱層のアナログとなる鉄質沈殿物とマンガン沈殿物について研究を進めた。まず,秋田県奥奥八九郎温泉の鉄質沈殿物について,昨年度に行った微小電極分析を実施した.特に注目したのは,鉄酸化細菌の代謝効果を実証するための鉄濃度のプロファイルであったが,電極の反応が悪く十分なデータが得られなかった。来年度は鉄電極を改善し,再度,現地で測定する予定である.また,本年度からマンガン沈殿物の研究を開始した.マンガン沈殿物は縞状鉄鉱層中に認められるので,その形成プロセスの手がかりになると期待できる.調査地である佐賀県平松鉱泉の源泉の温度約17℃,pHは中性~弱アルカリ性を示す.鉱泉水が貯められているタンク内に見られるマンガン沈殿物は茶色~褐色の未固結で非常に柔らかく,フィラメント状の集合体である。また,マンガンを溶解して観察すると,フィラメント状の微生物組織が確認できた.XRDよりマンガン沈殿物はアモルファスMnO_2であることが判明した.これらのことは,マンガンが微生物代謝により引き起こされたことを強く示唆する.フィラメント状微生物はマンガンを沈殿させる微生物として知られるLepthothrix属であると予想されたが,遺伝子解析により確認する必要がある.さらに,硫酸還元バクテリアの代謝によって生成する球状のフランボイダルパイライトが見られた.マンガン沈殿物中には,複雑な微生物体系が存在することが推測される. なお,研究成果として,秋田県奥奥八九郎温泉に堆積した縞状鉄質沈殿物の組織と微生物代謝との関連性についてまとめた論文(Takashima et al., 2011)と大分県長野湯の縞状アラゴナイト質トラバーチンの成因についてまとめた論文(Okumura et al., 2011)を公表した.
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今後の研究の推進方策 |
来年度も鉄質沈殿物とマンガン沈殿物について研究を進める.微小電極の現地分析には問題があるため,微小電極分析を精力的に行っている広島大学の白石史人博士の協力のもと測定を行い,微生物代謝の影響を定量的に見積もる. マンガン沈殿物については地球化学的・堆積学的・微生物学的手法を用いて多様な観点から研究を進める.特に微生物学的観点に重点を置き,遺伝子解析による微生物種の特定およびFISH法による微生物種の分布を明らかにし,マンガン酸化物の沈殿プロセスを解明する.
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