研究概要 |
本年度も昨年度から継続して,先カブリア紀に堆積した縞状鉄鉱層のアナログとなる鉄質沈殿物とマンガン沈殿物について研究を進めた.まず,Mn酸化物は引き続き佐賀県平松鉱泉を調査対象とし,Mn沈殿物の遺伝子解析を行い微生物群衆の特定を行った.その結果,鉄酸化細菌や鉄を多く含む環境に生息する微生物種が特定され,これらの代謝活動や菌体自体が核として働き,Mn酸化物の沈殿を促進していることが判明した.また,鉱泉中の高濃度Mn濃度の原因を特定するため,一年間の水質連続観測を行った.水質は明瞭な季節変化を示し,各パラメーターや溶存成分の変化は降水量の多い6-8月に大きく,それ以外の時期はほぼ安定している.これは鉱泉水が有明粘土層中の地下水と降水との混合であることを示す.また,Mnを含めた塩類は有明粘土層起源である可能性が高い.鉄酸化物については大分県別府市にある鶴の湯に焦点を当てた.鶴の湯は約45℃と中温で,pH 3.3と酸性環境である.湯元から下流にかけて沈殿物の色が変化している.上流では硫黄酸化細菌が形成する白色の硫黄芝が見られ,中流域では酸性環境を好むイデユコゴメ(紅藻類)を主体とする緑色のバイオマットが出現する.溶存酸素が増加した下流域では赤色の鉄酸化物が沈殿している.鶴の湯の鉄酸化物は縞状鉄鉱層に類似した縞状組織を示し,鉄酸化物とイデユコゴメ主体とした緑色の層との互層である.予察的であるが,酸性下で藻類の酸素供給により鉄酸化物の沈殿が促進されている可能性がある.さらに鉄酸化物の堆積組織や微生物群衆を特定し,堆積メカニズムを明らかにする必要がる. 研究成果としては,冷泉環境に沈殿するMn酸化物の成因について学会で発表を行い(Takashima et al., 2012),インドネシア ジャワ島のトラバーチンについてまとめた論文を発表した(Okumura et al., 2012).
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