研究概要 |
初期生命誕生の場は,水素に富む海底熱水噴出孔であったという仮説が有力である.しかし,その水素の起源については明らかとなっていない.一つの仮説として,"地震活動によって断層から水素が発生し,その水素をエネルギー源にして有機物をつくり出す化学合成独立栄養微生物(例えば,メタン生成菌)が地下生命圏を育んでいる"というモデルが提唱されている.本研究では,この仮説を検証するため,地震時の高速断層すべり運動を再現できる岩石摩擦実験によって地震時に発生する水素量を見積り,そして海底下の微生物が地震起源の水素をエネルギー源としている可能性を定量的に探ることを目的としている. 平成23年度は,初年度に設計・開発した高速摩擦試験機用圧力容器の中で地震性の高速すべり運動を再現する実験を再度おこない,実験の再現性を確認した.その結果,断層の摩擦エネルギー(地震のマグニチュード)と水素ガス発生量との間にきれいな相関関係が再確認された.この相関関係を用いて,地震時に発生する水素ガス量を見積もったところ,私たちが揺れをほとんど感じないほどの小規模な地震でも,断層帯の流体中の水素ガス濃度が1.1mol/kg以上になりうることがわかった.これまでに知られている海底熱水噴出孔の水素ガス濃度は高々0.02mol/kgであるため,断層帯で生じうる水素ガス濃度は大変高いと言える.これはすなわち,地震断層起源の水素ガスを「えさ」とする地下生態系が存在しうることを示しており,微小地震が継続的に起こっている沈み込み帯や中央海嶺近傍の断層帯にも,未発見の大規模な地下・海底下生物圏が拡がっている可能性を示唆している.この研究成果は,米国地球物理学連合発行の学術誌Gophysical Research Lettersに掲載された1本研究で示した高い水素ガス濃度やそれに依存した生態系が断層帯に実在するか,断層帯の掘削調査などによって今後検証されることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果,断層破壊運動にともなう岩石の比表面積の増加と水素の発生量に相関があることがわかりつつある.地震時にどの程度,断層内部の物質の比表面積が増加するかを既存のデータを解析することによって明らかにしたい.また,より現実的な地震発生場の環境下(例えば,含水条件)で実験をおこない,水素発生量と地震のマグニチュードの相関係数のばらつきを評価したい.
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