初期生命誕生の場は,水素に富む海底熱水噴出孔であったという仮説が有力である.しかし,その水素の起源については明らかとなっていない.一つの仮説として,“地震活動によって断層から水素が発生し,その水素をエネルギー源にして有機物をつくり出す化学合成独立栄養微生物(例えば,メタン生成菌)が地下生命圏を育んでいる”というモデルが提唱されている.本研究では,この仮説を検証するため,地震時の高速断層すべり運動を再現できる岩石摩擦実験によって地震時に発生する水素量を見積り,そして海底下の微生物が地震起源の水素をエネルギー源としている可能性を定量的に探ることを目的としている. 平成24年度は,初年度に設計・開発した高速摩擦試験機用圧力容器の中で地震性の高速すべり運動を再現する実験を,含水条件下に拡張しておこなった.特に,地震断層運動時の水の化学組成の変化と,発生する水素ガスの同位体比を測定することに挑戦した.断層水中の水素濃度についてはこれまでの実験結果と調和的な結果をえられたが,水素同位体比については実験の再現性の確認と,条件を変化させた実験をおこなって同位体比が変化するメカニズムを探る必要があることが明らかとなった.天然の断層帯水素ガスの同位体比から,水素ガスの起源を探る試みは今後の課題であるが,地震によって含水断層帯で生じうる水素ガス濃度は大変高く(数mmol/kg),地震断層起源の水素ガスを「えさ」とする地下生態系が存在しうる可能性を示すことができた.今後,微小地震が継続的に起こっている沈み込み帯や中央海嶺近傍の断層帯の掘削調査によって,地震断層地下生命圏の存在が検証されることが期待される.
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