研究課題/領域番号 |
22740336
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 東京工業大学, 大学院・情報理工学研究科, 科学研究費研究員 (20513641)
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キーワード | 造礁サンゴ / 光合成 / 石灰化 / モデル |
研究概要 |
造礁サンゴ骨格は、数百年の時間スケールを高時間分解能で古環境を復元するためのツールとして非常に有用である。特に骨格の酸素安定同位体比は海水の酸素同位体比や水温を反映していると考えられ、水温や塩分の指標として盛んに研究が行われている。しかし、サンゴ骨格は動的同位体効果(kinetic isotope effect)を受けて同位体非平衡下で形成されるため、古環境指標の大きな誤差要因となっている。この効果は、生物体内での酵素反応や物質移動に起因すると考えられるが、詳しいメカニズムは良く分かっていない。 そこで、本研究の目的は、造礁サンゴ生体にpHなどに感応する蛍光試薬を導入し、サンゴ生体内のpHなどの化学物質の分布や挙動を非破壊で生きたまま観察することにより、サンゴが光合成や石灰化を起こす際にどのような反応・移動経路を辿り骨格に沈積されるかを明らかにすることである。そして、そこで得られた知見を基に、サンゴの生体内の素過程をモデル化することを目的としている。そして、そのモデルを基に造礁サンゴ骨格に記録される酸素・炭素安定同位体比の受ける動的同位体効果が主にどのような反応や物質移動によって引き起こされるかを検討し、造礁サンゴ骨格中の酸素・炭素同位対比の古環境指標としての有用性について再検討を行う。 本年度は、去年度までの飼育実験と並行し、サンゴの生体内の素過程のモデル(内部モデル)の構築を行った。これは、サンゴが石灰化を行う際に駆動していると考えられている、トランス石灰化メカニズムを組み込み、光合成や石灰化の素過程を定式化することでモデル化を行った。光合成や石灰化に関する基本モデルはほぼ開発が完了した。このモデルのシミュレーションによって再現された、サンゴの光合成や石灰化のパターンは、実際の飼育実験で得られるパターンを良く再現していることが確認された。さらに、炭素安定同位体比を組み込んだモデルの開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サンゴ生体内のpH観察については、やや実験が遅れている。一方、生体内のモデル化については、来年度に本格的に行う予定であったが、現時点でかなり完成に近づいているため、計画以上に進展している。そのため、総じておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は蛍光観察やpHマイクロ電極等を用いたサンゴ生体内の観察により、この内部モデルの妥当性を検証し、モデルに必要な未知パラメータを推定する。さらには、このモデルを炭素・酸素同位体比をパラメータに含むモデルへと発展させる予定である。そして、そのモデルのシミュレーション結果と、サンゴ骨格に記録される酸素・炭素安定同位体比の記録と比較検討することで、同位体比を含んだモデルの妥当性を検証し、造礁サンゴ骨格中の酸素・炭素同位対比の古環境指標としての有用性について再検討を行う。
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