研究概要 |
近年,二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋の酸性化,また地球温暖化による成層化強化に伴う貧酸素化が懸念されている.その一方で,過去にもこれらと同様の地球環境があったことが推測される.例えば、白亜紀には,海洋無酸素事変という海水中の溶存酸素量が低下する海洋イベントが数回起こり,この期間,浮遊性有孔虫は高い種分化速度・絶滅率を示す.しかし,溶存酸素と浮遊性有孔虫との関係は技術的問題からこれまで検証されていない.本研究では,pH及び溶存酸素量を制御した浮遊性有孔虫の飼育実験を行い,白亜紀から今世紀末を通じて考えられる変動範囲において,浮遊性有孔虫の生物的・化学的反応について明らかにし,過去の海洋環境を解析するとともに,将来の環境変遷を予測することを目的とする.平成22年度は,溶存酸素量を制御した浮遊性有孔虫2種(Orbulina universa;共生藻あり,及び,Globigerina bulloides;共生藻なし)の飼育実験を行った.飼育溶存酸素濃度は,5%-100%超の範囲で6段階設定し,飼育個体の生存日数・配偶子放出個体の割合・殻形態及び殻形態の異常率・殻表面の孔密度・Orbulina universa種においては,Adult chamberであるsphere chamber形成の有無などについて,一部の測定を終了した.これは,溶存酸素濃度に対する浮遊性有孔虫の生物的反応としては,世界で初めての報告例であり,さらにその結果,浮遊性有孔虫が,これまで予想されていたよりもはるかに高い溶存酸素耐性を持つ可能性が示唆された.
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